東京高等裁判所 昭和32年(う)996号 判決
被告人 曹炳漢
〔抄 録〕
Y弁護人の論旨第一点について。
記録を調査すると原判決は被告人の所為について麻薬取締法第十二条第一項、第六十四条第一項、第六十八条、あへん法第八条第一項、第五十一条第一項、第五十四条、刑法第四十五条、第四十七条、第十条、第二十一条を適用して処断していることが認められるから、原判決は、被告人の所為をもつて併合罪であると認定したことが明らかである。ところが、その「罪となるべき事実」に関する判示をみると、「被告人は法定の除外事由なくして昭和三十一年十一月三十日東京都豊島区国電池袋駅構内外一カ所に於て、塩酸ジアセチルモルヒネを含有する麻薬粉末一〇四・四〇六七瓦及びあへん一・二二三七瓦を所持していたものである。」と摘示されているに過ぎない。けれども、およそ併合罪の関係にある数個の犯罪事実を判示するには、たとえそれらの行為が同一罪質であり、かつ手段方法等において共通している場合でも、各個の行為の内容を一々具体的に判示し、更に日時場所等を明らかにすることによつて、一の行為を他の行為から区別しうる程度に特定し、もつて少くとも、各個の行為に対し法令を適用するに妨げない程度に明確に判示することを要するのは多く説明を要しないところであるが、前記のような原判文を熟読しても、いかなる行為をもつて一個の行為と認めたのか、またどの行為とどの行為とが併合罪の関係にあると認めたのか理解することができないのである。そこで記録を調査すると、本件の事実関係はおよそ次のようなものであると認められる。
即ち、被告人は法定の除外事由がないのに昭和三十一年十一月二十七日頃、ジアセチルモルヒネを含有する麻薬(通称ヘロイン)約百瓦、同見本用三包(約三瓦)、あへん約一・二瓦を所持して兵庫県下から上京し、同月三十日頃埼玉県北足立郡朝霞町根岸千五百三十九番地金鐘徹方に立ち寄つた上、同人の紹介でヘロイン百瓦を他へ売渡すことになつたが、万一の危険を慮り、同日ヘロイン見本用三包とあへん約一・二瓦は右金鐘徹方の鏡台の抽斗内に入れて置き、ヘロイン約百瓦だけを持参して外出し、国電池袋駅に赴いた際、同駅構内東武鉄道東上線ホームにおいて逮捕されたものであると認められる。原判決は以上のような事実関係の下における被告人の「所持」をもつて数個の所持であると認定したことは、前記のような適用法令との関係上明白ではあるけれども、さきに掲げたような、原判決の事実摘示をもつてしては、被告人の前記のような所為のうち、どの行為とどの行為とが併合罪になるとしたのか全く明らかではないのである。本件における被告人の所持のように、現実に物を保管して置いた場所が二カ所にわたり、また所持した物件が適用法令を異にする二種の物件である場合に、その所持を包括して一個とみるべきか或いは数個とみるべきか、また数個の所持とみる場合でも、どの所持と、どの所持とを独立した所持とみるべきかということは、必ずしも簡単に決定し難いところであろうが、少くとも数個の所持と認定する以上は、その各個の所持についてその内容を具体的に判示し、日時場所等を明らかにすることによつて他の行為との区別を明確にする必要のあることは前に判示したとおりであるから、これを明らかにしていない原判決は、理由を附しない違法があるものというほかはない。もつとも本件起訴状を見ると、公訴事実として、原判決と同趣旨の事実が記載されているから、検察官としては、本件被告人の所為をもつて、包括一罪であるとの見解の下に起訴したのではないかと推認されないでもないが、原裁判所のように、被告人の所持を数個であると解する立場に立つならば、右のような起訴状の訴因の記載は不備であるといわなければならないから、原裁判所としてはすべからく釈明権を行使してその点を明らかにすべき義務があるものというべきである。従つて原判決がここに意を用いず、漫然起訴状を踏襲して前記のような事実摘示をした上、併合罪として処断したのは審理不尽に基く理由不備の違法があるといわなければならないのである。本論旨は理由があるから、Y弁護人のその余の論旨ならびにK弁護人の論旨について判断をまつまでもなく原判決は破棄を免れない。
(花輪 山本 下関)